「ふう‥‥まったく何を考えているのやら」

 育て方を間違えたと、当の弟が聞いたら怒り出すであろう台詞を吐きながら襟元を整える。
「兄への嫌がらせに情熱を燃やして‥‥。でも、僕は負けないぞ」
 新たなる決意。
 
 
[Morning Trick]
 
 
「達哉、そろそろ起きなさい」

 ベッドの中で丸まっている弟の体を揺する。

 ふさふさと揺れる達哉の髪。
 愛おしくてつい、撫でてしまうと自分でも頬がゆるんでいる事に気がつく。
(まさか、本当にこんな日々が帰ってくるなんて‥)
 大きくなってからはほとんど家には居なかった達哉が、このところ毎日家で生活している。
 なんとか取り戻したかった、当たり前のような幸せな生活。
 起こすという作業を忘れ、ベッドの傍らに腰を降ろし一緒にいられるという事実を楽しんだ。
 最近では「兄さんと同じ警察官になりたい」と言ってくれたり、嬉しいばかり。
(これで僕への嫌がらせさえなければ最高なんだけどな)
 ついつい溜め息がでてしまうくらい、克哉がいやがらせと信じて疑わない達哉の行動は、過激なものばかりだった。
(たまには僕だって‥‥、そうだッ)
 素敵ないたずらを思いついた子供の様。
「達哉、起きないと僕も布団に入るぞー」
 うん、これはかなり嫌なはずだと内心ほくそ笑む。
 兄弟で、しかもいい年した兄が布団に潜り込むというのは非常に嫌だろう‥と、笑いを堪えながらもう一度起こすという作業を再開。
「たーつーや」
 ゆさゆさ揺らすが無反応。
「たーつーや」
 どうしても弟の嫌がる顔を見たいという欲求に負け、横を向いて眠る達哉と背中合わせになるようにベッドに潜り込むが、
「‥‥え?」
 弟のこれからの行動は兄の想像の範疇を軽く超えていた。
 
 くるりと寝返りをうったかと思うと、すぐさま後ろから抱きすくめられる。
 伝わる暖かさ。
 人が寝ている時の温度はとても心地よく、一瞬嫌がらせを忘れこのまま寝てしまいたくなる。
「こら‥くすぐ‥‥‥うわッ!?」
 達哉が首筋に顔を埋めてくるところまではよかったが、グイッとワイシャツの襟元を開き啄むようにキスされる。克哉を拘束する腕の力強さ、とてもじゃないが寝惚けているとは思えない。
 自分の頬が真っ赤になるのが嫌でも分かってしまう。
 首筋にキスなど冗談では無い。
 弟から抱き着いてきて嬉しく思ったのもつかの間、急に下半身に押し当てられる熱が生々しく意識させられる。ジタバタとみっともなくもがくが、なかなか腕を外せない。
「や‥めなさいッ!!」
 怒鳴るが達哉の行動は止まらない。
「達‥哉‥‥ッ」
 ねっとりと首に押し当てられる熱い舌に、声が震えてしまう。
「お前に‥仕返し‥しようとした‥僕が悪か‥‥ッ」
 また唇が押し付けられたかと思うと強く吸われる。
 何度も押し当てられるそれにたまらず‥、
 
「いい加減にしなさいッ!!」
 
 ゴッと鈍い音が響く。
「‥‥‥‥‥‥‥ッ痛てー‥‥」
 本気になった兄の一撃。
 達哉を振りほどき脳天にゲンコツ。
「っはぁ‥っは‥あ‥‥‥、僕が悪かったと言っているだろう馬鹿もの!!」
「へーーい」
 なでなでと頭をさすりながら、動じていないふてぶてしい態度。 
(まったくもって可愛く無いッ)
「ッはぁーーーーーーー。さっさと支度しなさいッ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 ジッと無言のまま見つめてくる達哉を不信に思った。
「なんだ?」
「んーーー‥‥」
「どうした?」
「無理」
「何故?」
「これ、克哉が処理してくれたらいーよ」
 と、親指を自らの下半身へと向ける。
 鈍い克哉だが、その意味することに気がついてしまい‥‥‥
「馬鹿ものーーーーーーーーッ!!!!!!」
 克哉の怒声周防家に響き渡る。
「さっさと来いッ!」
 バンッと勢い良く戸を絞め、克哉は出て行く。
 
 
「あんな色っぽい姿見せられてすぐいけるワケないじゃんか‥」
 先ほどの克哉の姿。
 軽く乱れた衣服に上気した頬、涙の浮かんだ瞳。
 今思い出しても体が熱くなる。
「ほんと‥鈍い兄さん」
 可愛すぎる。
 今度は絶対最後までやろう。
(そうだな、とりあえず父さんと母さんには旅行でもプレゼントしよう)
 兄さんの非番の確認と旅行の予約。
 楽しい予定をたてながら気を紛らわせる達哉。
 

「逃がさないよ、克哉」

 
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2006.08.20
罰克哉は物理攻撃のエキスパート。気合いと根性と悪知恵で頑張れ罰タッちゃん。
 
 
 

 

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