連日の戦闘と、日ごとに荒れていく街が、僕の心を蝕んでいたのだろう。
 いつの間にかそうなっていたのだ。
 だから。
 だからこそ。
 僕は弟にあんな事をさせ、言わせてしまったんだ。
 
 
 達哉。
 あぁ、達哉。
 僕の、大切な、弟。
 お前をそこまで追い詰めたのは、僕だ。
 
 
 
 寝るに寝られなくてなれない酒を口にした。
 最近、アルコールの力を借りないと眠りにつくことが出来ない。
 妙に神経が高ぶっていることは自覚しているが、どうすることも出来ない。
 一度滅びた世界。
 大切な記憶を手放し、世界を救おうとした弟とその親友。
 だが、達哉はその大切な記憶を、たくさんの人たちのために手放すことが、どうしても出来なかったと懺悔した。
 だからこそ、この世界は壊れかけているのだ、とも。
 そんなことはどうでも良い。
 そんな風に世界が壊れる最中に弟を放り出し、向こうの世界の僕は何も出来なかったのかと、無力感にさいなまれた。
 今、僕が持つペルソナ能力も、達哉を助ける役に立っているのかいないのか。
 ただ、達也を追い詰めているのでは、と時々思ってしまう。
 自分や、舞耶が戦いに参加していることを、達哉は最初から快く思っていなかった。
 それがこんなところまで来て、未だに悩んでしまう。
 自分は、弟の、達哉の役に立てているのだろうか、と。
 高校の時にパティシエになる夢を諦め、警察官になったのは弟を守るためだった。
 あの真っ直ぐで、一途な弟を守りたいからこそ、自分が警察官になり内部から父の無罪を証明しようとした。
 だがどうだ?
 今思い返してみれば、あの頃から弟は自分を頼らなくなっていたのではないか?
 僕が気にかけるほどに、弟は僕の事を気にかけなくなっていったのでは?
 どんどん、弟が何を考えているのか、判らなくなっていって……とうとう中身が変わっていても、それに気がつかなかった。
「アンタ、まだ起きていたのか」
 少し突き放したような、それでもいたわりをどこかに感じる声をかけられた。
 僕の大切な弟。
 でも、中身は違うという。
「達哉……すまない、起こしたか?」
「いゃ、喉が渇いたから水を飲みに来ただけだ」
 じっと、真っ直ぐに見つめられ、いたたまれなくなる。
 清廉な眼差しだ。
 どこまでも清く、汚濁を許さない。
 自分が手放せなかった記憶故に、一身に罪を償っている殉教者の。
 その美しすぎる眼差しを、真っ直ぐに受け止められない。
 かつての僕だったらどうだっただろう……もう、思い出せない。
「なぁ、眠れないのか?」
「いや……」
「寝れないなら、寝れるようにしてやろうか?」
「?」
 まだ半分ほどしか減っていない缶を取り上げられる。
 見上げるが、達哉の顔は逆光になり細かな表情は見えない
 どんな表情をしているのだろうか?
 アルコールの力を借りなければ眠れない兄を、不甲斐ないと見ているのだろうか?
 何も、判らない。
「達哉?」
「アンタは、されるがままになっていればいい。眠らせてやるよ」
 そう言うと達哉は僕の足の間にしゃがみ、膝を無理矢理開かせた。
 何だ?
 何をしようと?
 戸惑っている間にパジャマのズボンを下着と一緒に引きずり下ろされ、勢い飛び出たそれを達哉は戸惑うことなく口にした。
「な、何…を……」
 制止するまもなくしゃぶられ、熱く舐めあげられる。
 驚くまもなく、脳が焼ける。
 ねっとりと、根本から先まで見せつけるようにこちらを、視線だけで見上げながら舐めたかと思うと、そのまますっぽりと口腔内にくわえ込み、ジュブジュブとわざととしか思えないほど音を立てる。
 達哉の熱と、くすぐるように押しつけられる舌の感触。
 聴覚に響く水音。
 何が現実なのか、判らなくなる。
 もう……
「う、あぁ……」
 くる。
 あと少し。
 そう思った瞬間、先端に歯を立てられ根本をこすりあげられた。
 勢い、こらえきれなかった。
 こんな早くに射精するなんて……
 あがってしまった息を何とか元に戻そうとしながら、達哉を見る。
 達哉の端正な顔に、幾ばくかの白い飛沫と、口から何かを零しながら飲み込む姿が。
 何、を?
 飲み込んだ?
 口の橋からこぼれたそれを、指でぬぐい、舐める。
 赤い舌が、白いそれを舐め取る。
 ごくり、と喉が鳴った。
 涼しい顔のままで、何て卑猥な空気を醸し出すのだ。
 弟、なのに。
 僕は兄、なのに。
 心配させ、そのあげくに何てことを。
「あ……」
「まだ、元気そうだな」
 二・三度こすりあげられる。
 刀を握る事で出来た堅いたこのある指。
 そのごつごつとした感触が、キモチイイ。
 ダメだと制止する理性が、引きちぎられそうになる。
「達哉っ!」
「アンタは、気持ちよくなっていればいい」
 今度は両の手でこすりあげながら、根本の下あたりを舐める。
「う…あ……ダメ、だ……っ」
 これ以上は。
 そう思うのに、放すことが出来ない。
 熱のない達也の目が、それを許さない。
 僕だけが、乱されている。
 それが、どうだとか考えるまもなく、二度目の射精を促された。
 
 
 息が上がる。
 身体に力が入らなくて、ずるずると肩がずり落ちていく。
 座っているのもすでに億劫だ。
 達哉は、僕の二度目の射精も口で受け止め、それを飲み込んだ。
 丁寧に、飛沫を舌で舐めとりながら。
 その姿が淫猥で、僕は出したばかりだというのに、熱が集まりかけているのが判った。
 ダメ、だ。
 達哉は、弟、なんだ。
 その弟に、欲情するなんて。
 これほど近くで達哉の顔を見たのは何年ぶりなのだろう。
 そう思いながら、微かに残る理性で抑止した。
「達哉…汚いから……」
 はき出しなさい。
 そう言うつもりだった。
 だが、言えなかった。
 不思議そうな眼差しを向けられて。
「アンタのどこが汚い?アンタはどこもかしこも綺麗だ。誰にも相談することなく、夢を諦めて警察官になった。俺にはそれが寂しかったけれど、理想に燃えて突き進むアンタは綺麗だった。そんなアンタを認めたいけれど、何でも一人で出来てしまうアンタに、俺はいつも引け目を感じ、それでも自慢だった……アンタはいつだって、綺麗だ」
 口元に、今までに見たことがないような柔らかな笑みが。
 あぁこの弟は、昔から何も変わってはいなかったのだ。
 僕の後を付いて歩いていたときから。
 ただ僕が、彼の手を放してしまったんだ。
「どんなモノでも、綺麗だよ。俺と違って、穢れてなんかいない」
 優しく、甘く達也の声が響く。
 その声が、ダメだと抑止する理性を振りきらせる。
「まだ元気だな」
 立ち上がりかけたそれを、やはりとまどいを見せることなく達哉は口に咥えた。
 二度も出しているのに、達哉に咥えられているというその事だけで、熱がたまる。
 弟の秀麗な顔が、ソコにあると言うことだけでも。
「……っうぁ」
 三度目なのに、本当に容易く熱がたまる。
 達哉が喉の奥までくわえ込み、ゆるゆると頭を上下させている。
 あぁ……もう……
 達哉の髪に手を入れ、その髪を引っ張る。
 こんな手荒なことしてはいけないと判っていても、そうしたかった。
 口が離れた瞬間、三度目が、出た。
 達哉の顔に。
 白く、ドロリとした粘着質の液体が、飛び散る。
 男らしさの中に未だ残る少年の色。
 不安定でも成長をしている達哉の顔に、僕のがかかったのを見るとどこかで満足を覚えた。
 そして、僕は、意識を失った。
 
 
 
 
 
 
 この人が心を痛めているのは知っていた。
 向こうでの兄とそう差異のないもう一人の兄。
 アンタが心を痛める必要はない。
 全ての咎は、俺にあるのだから。
 だから、日々疲労し、アルコールの助けがなければ眠れない様子が、酷く怖かった。
 どうすればその悩みを解消させられるのか判らない。
 判らないからこそ、手っ取り早い方法を選んだ。
 疲れさせ、寝かしつければよいのだ、と。
 本来であれば疲れているはずの肉体を、さらに疲弊させるのは気が引けたが、精神の高ぶりをそのまま利用してでも寝かしつけるべきだと思った。
 そう思わせるだけの悲壮さが、最近のこの人にはあった。
 綺麗なこの人の精神は、直接の弟ではないにしろ、弟の身体を乗っ取っている俺に対して気を遣いすぎている。
 罵倒し、嫌悪されても仕方がない存在なのに、いつも気を遣い優しくしてくれている。
 俺の目から見てもこのままでダメだ、と思えるほど追い詰められているのに、だ。
 疲れ果て、寝入っている姿に安堵する。
 アルコールによる眠りでは、アルコールが胎内で分解されたときに、目が覚めてしまう。
 これなら、朝までぐっすりだろう。
 どうせなら寝坊してしまえばよい。
 タオルを濡らし、自分の顔を拭くとあの人のも拭く。
 周りが汚れないようにと気をつけ、ほとんど飲んだ。
 だからパジャマに飛んでいないのを確認し、ベッドに運ぶ。
「お休み」
 
 
 
 
 
 せめて、夢の中だけでも安らかであればいい。
 
 
--------------------------------------------------------------------------------------------
2006.10.02
友人、吉 和氏に書いて貰った小説。
ボクの罰本の為に書いてくれたのだけれど、出せなかったのでサイトにアップ。
意志薄弱で申し訳ない。
そんなボクに堪らなく素敵で、綺麗な小説をありがとう。
罰タッちゃんならではの切な気な雰囲気に刺激される。ああもう、素敵すぎるこの兄弟。

 

inserted by FC2 system