[二人とも喧嘩するな!]
 
 
 
 
 全く同じ顔の造り、しかし、やはり個々の人格を有する別人。
 双子である、達哉と達哉。
 
 今まで離れて暮らしていた、『向こう側』の達哉。
 セブンスの学生服に身を包み、一見クールな印象を与える彼は、自分の感情を押さえ込んだ無表情を装っている。
 
 克哉と一緒に生活していた『こちら側』の達哉。
 セブンスの制服など脱ぎ捨て、今は真っ赤なライダースーツに身を包む、およそ押さえる事を知らない荒々しい雰囲気を纏う。
 
 そんな二人が周防家のリビングで、言葉では無く互いの体を使い争っている。喧嘩というには物騒すぎる争い。
 こちら側の達哉の、荒くれ者どもを相手にしてきた凶悪な蹴りが繰り出される。それに慌てる事なく、落ち着いた様子でかわすとしゃがみ込み、こちら側の達哉の軸足を踵で思いきり払う。
「……ッ!」
 思わぬ不意打ちに体勢を崩したところへ、容赦なく向こう側の達哉が追撃する。クルリと体勢を入れ替え、足払いをした方とは反対の足で必殺の蹴り。
 床を転がり、逃れるこちら側の達哉。
 
 再び対峙する達哉と達哉。
 お互い、一歩も引かぬ攻防は何時までも続くかにおもわれた……が。
 
 
「二人ともいい加減にしなさいッ!!」
 
 ふたりの最愛の兄。克哉はこぶしをグーのカタチにして、弟ふたりの脳天に振り降ろした。
『痛ッ!?』
 息の合ったダブルサウンド。
 元気が良すぎるふたりの達哉は、ようやく大人しくなる。
 
「まったく、どうしてお前たちは毎日毎日…、そんな物騒な喧嘩をするんだ」
 
 こぶしが痛むのか、はたまた弟を心配してなのか、赤いデザイナーズブランドのサングラスの奥、克哉の両目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「お前たち、もう少し仲良くできないのか?」
「そんなこと…」
「いわれてもなぁ……」
 痛む頭を撫でながら、床にぺちゃんと座りこむ弟たちの姿は妙に可愛らしく。克哉は頬が緩みそうになるが、必死で厳しい表情を作り出していた。
「‥‥ふぅ。それで、今日は何で争っていたんだ?」
『んーーーーー………』
「怒らないから言ってみなさい」
『………………』
 なんだかんだといっても、まだ幼さの残るあどけない表情。
 ふたりは互いに見合い、なにか相談しているかのようだった。
 
(ああ、もう。息の合ったふたりなんだが…何をそんなに争うんだ?)
 
 克哉は不思議で仕方が無かった。
『言っても怒らない?』
「ああ、怒らない。それで、なんなんだい?」
 
『どっちが先に克哉に挿れるかっていう話』
 
 
 …………………………………………………………。
 
「なぁ、お前たち。やっぱり怒っていいいか?」
 
『嫌』
 
 
 
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2006.09.17
お兄ちゃん大好きッ子ふたりの争いは危険です。
次回は甘い話に挑戦だー

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