[共同戦線を張ってみる](笑)
 
 
 
 
 嬉しさと不安を綯い交ぜにした表情。
 見る者を魅了、あるいは守ってあげたいと心の底から思わせる程の美貌の持ち主、周防克哉は自宅のドアを目の前に深々と溜め息をついた。
「ちゃんと仲良くしているだろうか…」
 彼の愛しい、愛しい二人の達哉。
 溺愛する弟二人は何故か喧嘩をしていることが多かった。
 喧嘩と表現すればまだいいが、常人とは桁外れの攻撃力を備えた彼らの喧嘩は殺伐としていて見る者の寿命を縮める。
 克哉の生きていく上での糧といっても過言ではない程、愛しい弟二人がそんな危険なことをするのは泣きたくなる程切ない。
 直視しがたい現実だが、争っているなら一刻も早く止めなければと使命感の方が勝ったところで勢い良くドアを開けた。
 
「ただいま………………あれ?」
 
 シンと静まり返る1階フロア。普段ならばリビングから耳を被いたくなるような音が聞こえてくるはずなのだが、予想外の展開に少々面くらう。
 あまりの静けさに二人とも居ないかと思ったが、玄関に脱ぎ捨てられた二組の靴がその考えを否定した。
「二人とも仲良くしているの…かな?」
 仲よき事は良い事のはずなのだが、何故か不安が拭えない克哉。
 弟の姿を探し2階へと上がった。
 
 コンコンコンッ
 
 律儀にノックを3回すると、いいよーというダブルサウンドが聞こえてきた。
 二人とも仲良く一緒に居ることを珍しいと思ってしまった自分の不謹慎さを反省し、笑顔を取り戻す。
「ただいま、達…………哉ぁああッ!!!?」
 
 笑顔で扉を開けた克哉だったが、その顔は一瞬にして驚愕の表情へと変貌し、あまりの驚きのあまりペタンと尻餅をついてしまう。
 だらしなくベッドの上に寝そべりながらテレビを見る達哉に、壁を背に座ってバイク雑誌を見ている達哉。仲良く一緒の空間に居る二人はとても仲が良さそうだったが、問題なのはその格好だった。
 
 上半身の白と、下半身を覆うワインカラーが目に眩しい。
 胸元のギャザーがシックな高級感を漂わせ、ふとめのカフスも気持ちのゆとりが伝わるよう。ゆったりとしたフリルの大きなエプロンが働き者のイメージを強調する………
「何で二人ともメイドさんッ!?」
 罰ゲームか何かの延長だろうかと、この状況でかろうじてツッコめた克哉に、二人の弟が歩み寄る。
『はい、克哉の分』
 満面の笑顔で衣装一式を目の前に出される。
「なッ……ななな、何で僕までッ!?」
 至極真っ当な台詞を吐く克哉に構わず弟二人は続けた。
 座り込む克哉にあわせるため、床に膝をつきまるで猫のような姿勢でジッと上目遣いに視線を絡める。
 
『お兄ちゃんとお揃いがいいな』
 
 お兄ちゃんとお揃い
 お兄ちゃんとお揃い
 お兄ちゃんとお揃い
 お兄ちゃんとお揃い
 
 嗚呼、絶対に着たくはないのに、お兄ちゃんとお揃いというフレーズが頭の中に反響して頑な理性が揺れる。
 葛藤する克哉にもう一度……
 
『お兄ちゃん』
 
という一言が追い討ちをかける。
 兄貴でも兄さんでもない。
 幼い頃の克哉の呼び方。
 可愛らしい過去の姿が脳裏に蘇り………はい、陥落。
 弟二人の頼みを断れるはずがなかった。
 
 陥落させた克哉の姿を前に、表情はそのままで後ろ手にガッツポーズをとる二人は、普段とても喧嘩をしているようには見えないほど息の合ったコンビだった。
 
「な…なんか、僕の方がオプションが増えているような…」
 ダークグレイの隙のないスーツから、恥じらいながらもメイド服へと着替える克哉だが、弟二人が渡してくる衣装は明らかに多かった。細部に渡り、見えない所までこだわるのは男のロマンというやつだろうか。
『細かいことは気にするな』
 そう言いながら、Wレースカチューシャをそっと髪にさし完成。
 羞恥の為、ほんのりと上気した頬に潤む瞳。
 愛らしさと美しさとが同時に成り立つ、極上のメイドさんが出来合った。
 
「え…えっと、おかしく…ないかな?」
 そんなことは絶対ない。むしろ似合い過ぎていると、思いっきり首を横に振る弟二人。本当に今日は仲が良かった。
「父さんと母さんが見たら驚くだろう?そろそろ脱いで…」
 言葉を最後まで言う前に遮られる。
「ん、大丈夫だって」
「父さんと母さんは町内会の旅行で今夜居ないから」
「そ…そうなのか……」
『うん。だからその格好のままでご飯作って』
「え?このままで」
『腹減った』
 目は口ほどにものを言うとは良く言ったものだ。
 克哉を見つめる達哉二人の目は、まるで「作ってくれないの?」と訴えているかのようだった。この状況で、克哉が断れないことを弟二人はよく知っていた。
「わ…、わかった。すぐ作るから待っていなさい」
 慌てて階段を駆け降りる姿すら可愛らしい。
 
「さて…と」
「俺たちも行くか」
 
 無駄なくらい仲の良い二人は、克哉を鑑賞する気満々。
 三人の夜はまだ始まったばかりだった。
 
 
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2006.10.01

友人と車の中で話したネタ。嫌がらせずに克哉にメイド姿をさせる為なら、自分たち自身でメイド服を着ることさえいとわないだろうと。普段喧嘩ばかりの彼らも、克哉の為(自分達の欲望)ならば協力するよねーと。この角度から見上げるとか計算済み。そしてポイントは「お兄ちゃん」という呼び方。

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