影時間が刻一刻と近づいてくる。
 
 伊織順平は、特別課外活動に向けて今日はやや遅めに生徒会室の扉を開き、こっそり様子を伺う。
 室内に、夜気を纏ったようなミステリアスな美少年の姿が無い事を確認。
「お、今日はまだサディスティック星の女王様は来てねーな」
「ふふ‥なーに〜、開口一番がそれ?」
 丘羽ゆかりが可笑しそうに笑う。
「実は居なくてガッカリしたんじゃないの?」
「うへぇ〜、冗談。居たらどうしようかと俺はドッキドキよ」
 伊織はワザと、オーバーアクションでやれやれと溜め息をついてみせる。
「何言ってるの。アイツがサディスティック星の女王様なら、アンタはマゾ星からきた虐げられ星人じゃない。すーっかりイジメられるのがクセになってたりして〜〜」
「し‥‥しいたげられ‥‥って‥‥‥‥‥‥あ〜〜‥‥」
 ちょっぴし切ない響きに抗議しようとしても事実なので反論できず。
 転校生にまっ先に声をかけてしまったが、後々大変な事となるとは当時は想像もしなかった。
 当たり前だが。
 物静かな美少年‥そんな雰囲気に大いにダマされた伊織。
 外面の良い転校生。だが伊織にとっては、小天使の仮面を被った暴帝だった。
 朝は爽やかにボディブロー。(何故?)昼は好物を横取り。(マジすか?)文句を言えばワザをキめられ意識を落とされかけ、何かとイチャモンをつけては足蹴にされてみたり‥。ある時などは、伊織のペルソナが「無駄にカッコいい!!」と関節技をかけられた。
 なんというか、転校生は伊織に対して見事なまでのワガママっぷりを発揮していた。
「っはー‥‥、あんなにされて何で俺ってば反抗できない?」
「んー‥‥真性の『M』に目覚めたとか?」
「うへぇ〜‥そりゃ‥」
 違うと反論しかけた伊織の声を、綺麗なボーイソプラノが遮った。
 
「それは違うぞ、ゆかり」
 
「‥‥ひぃッ」
 驚く伊織と、実は気付いていた丘羽。
「え?そーなの??」
「そうだ。コイツが『S』で僕が『M』だ」
 涼しい顔でとんでもない事を言う。
「どッ‥‥どこがじゃぁああああああああ!!」
 思わず絶叫する伊織だが‥‥
「グハッ!?」
 転校生に思いっきり踏み付けられる。
 プチッと潰れる伊織。
 
「あっているだろう?下僕」
 
「ど‥‥どこが‥‥‥‥」
「僕が『Master(主人)』で、お前が『Slave(奴隷)』だ」
 
 綺麗に残酷に、とても無邪気に微笑むその表情は心無しか少し嬉しそうに見えた。
 
 
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2006.08.17
ある人から聞いた、「S」と「M」の定義。
 

 

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