「おい、下僕。ラーメンが食べたい」
 
 授業が終わるや否や、物静かな美少年 ―― 寒守夜斗がそう呟く。 
「‥‥わぁった。メシ食いにいこーや‥」
 要望のような命令。伊織順平は何故か逆らえない。
 逆らってもいいのだがその時は‥
「なんだ、不満そうだな?」
「ぎゃ〜〜ッ!!!!!」
 こうなる。
 寒守の一見寂し気な表情とは裏腹に、ギリギリギリと華奢な腕が伊織の首を締め上げる。
「不満か?」
「ッ嬉しい‥‥嬉しいッ!メッチャ‥クッチャ嬉しっ‥て〜〜〜」
「うむ、素直でよろしい」
「っはーーー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 ガックシと床に膝をつく伊織の手を握ると、『はがくれ』に向かって楽しそうに歩き出す。
 今だダメージの回復しきっていない伊織はといえば、ズルズルと引きずられていくのみ。
 
 
 『はがくれ』に到着したふたりは、丁度空いた奥の方席に向かい合って座る。
 
「ご注文は?」
「あー、俺は味玉ラーメン大盛りと半ライス」
「僕はチャーシュー麺大盛りで‥それとチャーハン付き」
 あれ?と、伊織はふと違和感に気付く。
「夜斗?お前も味付き卵好きだったろ‥注文しなくていいのか?」
「ああ、いいんだ」
 にっこりと微笑む寒守。
 ふーん、そういう日もあるか‥と伊織は納得した。
 
 注文したラーメンが届き、もさもさと食べはじめるふたり。
 だが伊織は寒守の食べっぷりにしばし見愡れた。 
 寒守が転入してきてからというもの、ほぼ毎日のようにご飯を一緒に食べているのだが、この華奢な体の何処にこれだけの量が収まるのかと毎回不思議に思う。食べ盛りの男子高校生とはいえ、寒守の食べる量はすごい。しかもそれらは上品に、順序よく寒守の胃袋に収まってゆく。
「どうした?ぼーっとして‥」
「ん、ああ‥いやなんでも。ほら、もう少し食べれるだろ」
 存分に、寒守の胃袋事情を知る伊織は自分の麺を分けてやる。
「良い心掛けだ」
「へいへい‥」
 
 いよいよ食事も終盤に差し掛かり、伊織は味付き卵にハシをつける‥‥が――
 パクリ。
「あーーーーッ!?」
 身を乗り出して来た寒守にたまごをかじられてしまう。
 しかも御丁寧に、一瞬呆気にとられているとその刹那の間にパクパクパクと丸まる1こ全部を平らげてしまう。
「ヒッデェ〜〜〜ッ!最後にとっといたヤツなのに〜」
 当然の抗議だが、
「うむ、お前の『好きなモノは最後までとっておく』という行為がスパイスとなり、たまごが更に美味しくなる」
 しれっと、事も無げに返されてしまう。どうやら最初から奪う気満々であったらしい。
「どーりで注文しなかったわけだ‥‥」
 完敗である。
「まあ、そうガッカリするな。お前には代わりにデザートをやろう」
「へ?」
 言い終わるや否や、グイと伊織を引き寄せ ――― 啄むような軽いキス。
 
「うまいか?」
 
 顔を斜に傾け、満面の笑みを浮かべる寒守を、伊織はまともに見る事が出来無かった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
 
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2006.08.19
はい、デザートまでしっかりいただいたのは主人公クンの方ですね。

 

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