「うえ〜‥‥‥、マジかよ‥‥」
 季節外れの深夜特番、稲川淳二朗のTVに触発されてはしゃいでしまった自分が恨めしい。
 伊織順平は、後悔先に立たずとはこの事かと痛感していた。
 横を見ると、気持ち良さそうに眠るクラスメート達。
 
「はぁ‥‥。まいったな〜‥‥」
 
 
      [偶然と罠]
 
 
 雅と古が調和する街。京都での2・3年合同修学旅行。
 露天風呂での命を掛けたミッションを無事に完遂した伊織が、部屋に戻ると同室のクラスメート達が何やら真剣に画面に見入っていた。
 最初は、もしかしてエロ!!と期待したが残念。深夜番組の心霊特番だった。
 
「ちぇ‥、色気ねーよなぁ」
 そう苦笑した伊織だったが、ついつい一緒になって見てしまう。
 それどころか、夜斗と綾時まで呼んで呼んでしまった。
 だが、これがいけなかった。
 
 
 数十分後、夜斗以外見事に撃沈。
 みんなで仲良く布団に突っ伏し、聞かなければ良かったと心の中は後悔の嵐。
 テレビの中の稲川淳二朗の話は面白かったが、夜斗の恐い話はシャレにならなかった。
 無論、純粋に伊織イジメの一貫。その妙にリアルでピンポイントな心霊ネタは心の底から恐怖という感情を引きずり出すには十分すぎた。
 
「お‥‥‥おやすみ‥‥‥‥‥‥‥」
 夜斗と綾時を見送り、その日はとりあえず寝ることにしたのだが、こういう時に限って夜中に目が覚めてしまう。おまけに軽い尿意。
 朝まで我慢できなくもないが、混雑する手洗いで夜斗にでも見つかったら大変だ。
 順番待ちの最中にどんな嫌がらせをされるか分からない。
 なにせ先程、風呂の後は十分に水分を摂取せねばならんと、伊織に半ば無理矢理に清涼飲料水を飲ませた張本人こそ夜斗なのだった。
「ッはぁーーーーーーーー‥‥‥‥‥。まさかこの年になってトイレ行くのが恐いなんてなぁ‥」
 盛大に溜め息をついてしまう。
 みすみす夜斗の餌食になるもの嫌だったし、怪談話の所為でトイレに行けないなんていう事実は葬り去りたかった。
 意を決して、廊下へでると偶然見つけた人影。
 
「セ‥‥‥センパーーーーイッ!!」
 
「‥‥‥‥なんなんだ、お前は」
 無闇やたらと、気持ちが悪いくらい笑顔の伊織に呆れる真田明彦。
「ね?ね?センパイも一緒に行きましょうよ〜ッ」
 必死で勧誘する伊織。やはり、恐いものは恐いのだ。
「スンマセン、このとーり。お願いしますッ!」
 手を合わせ、上目遣いに一生懸命懇願する姿。
(そういう顔をするから寒守に遊ばれるんだぞ)
 ふと、嗜虐的な笑みが浮かびそうになるのを必死で抑える真田。
 表面上は極力、そっけない態度を装ってはいるが徐々に機嫌の良くなっていく。
 逢えて嬉しいはずだったのだが、先程向けられた笑顔に、少々気分を害していたのだった。
 それは、誰にでも、別に真田でなくとも伊織は喜んだと直感的に気付いていたから。
 自分だから喜んだ。そんな表情が見たいのだった。
 
「仕方ない。だが、高くつくぞ」
「ありがとーございますッ」
 了承と受け取り、伊織は素直に喜んだ。
 
 
 シンと静まり返る廊下を歩きながら、小声で会話するふたり。
「まったく、いい年して恥ずかしくないのか?」
「‥‥んなこといったって、マジ恐いんすよ‥‥。夜斗の怪談話はシャレになんねーんすからぁ‥」
 素直に恐いと白状する伊織。
「うう‥。思い出しただけで鳥肌が‥‥」
 青ざめ、震える姿を見て、寒守の徹底ぶりに呆れた。
「しかも、こーなることを期待したみたいに水分いっぱい摂取させるんだもんなぁー」
 お気に入りを、精神的にも肉体的にも徹底的に弄ぶ。
 
(フッ‥‥。なかなかアイツも悪趣味だ)
 せっかく逢えたのだ。どうやって虐めてやろうかと想像して楽しくなる。
 
「うーっし、やっと着い‥‥」
 お手洗いに駆け込もうとする伊織の手をしっかりと掴む。
「さて‥と、まずはお代をいただこうか?」
 凶悪なまでに凄絶な笑みが浮かんでいた。
「な‥なななな、何すかッ!?」
 突然、個室に引きずりこまれ慌てふためく伊織。
「何って、決まっているだろう」
 しれっと悪びれもせずに台詞を吐くと、伊織を後ろから抱き締める真田。
 なんとか抜け出そうと暴れようとするが、真田の無駄なく鍛え抜かれた肉体相手では分が悪かった。
「ちょッ!?セ‥センパイまで冗談はよしてくださいよーッ!!」
 真田の言い分と、これからしようとしている行為に思い当たり、思わず大声を出してしまう。
「ひッ‥‥」
 首筋への熱く嘗めるようなキスに驚いて一瞬声が止む。
「いいのか?そんなに大きな声を出して」
 低く色香のある声音で脅される。
「そ‥‥そんな事‥‥‥‥言われても‥そんな‥‥」
「ククッ、だから俺は高いと言っただろう?」
「‥‥ウウッ」
 そんな事をいわれても、まさかこういう行為をする事になろうとは想像できるわけがないと抗議したかったが、唇を塞がれ、舌を絡め取られては撥音などできなかった。
 強く、激しく口腔内を蹂躙されると同時に、抵抗する力をも奪っていく。
 ある程度力が抜けた事を見計らい、拘束する為に使っていた手を、浴衣の隙間へと滑り込ませる。
 胸を、腿を撫で上げる。
 快楽に慣らされた体は、真田の手が動く度、いちいち良い反応を返してしまう。
 
「‥‥セン‥パイ。も‥‥勘弁‥して‥ください‥」
 誰か来るかもしれないという恐怖、下腹部の生理現象、それらが完全に快楽に浸る事を許されない伊織には拷問にも等しい行為。
 恐ろしいまでの快楽と我慢に気が狂いそうになる。
 だが、涙ながらに訴える姿は相手の嗜虐心、征服欲を刺激するだけだった。
「フッ‥‥。これだけの刺激でこんなになるとは‥‥」
 今まで触れなかった、はち切れんばかりに膨張した伊織自身。
 先端から恥ずかしげもなく透明な蜜を滴らせるそれを握り、グイと塗り付けるように刺激する。
「‥‥ッぁあ」
「もうイキそうじゃないか。よくこんな淫らな体に躾けて貰ったものだな」
 寒守との関係を指摘したところ、その行為を思い出したのか、ビクリと背筋が震え、とんでもなく艶やかな吐息がもれた。
 
(面白くないな‥)
 
「‥‥あ?」
 体への刺激を止め、伊織を便座に座らせる。
「自分でしてみろよ」
 パーツの整った綺麗な顔には、高慢なまでに凄絶な笑みが成形されていた。
 一瞬見愡れるが、自分が何を命令されているのか理解すると、羞恥で顔が熱くなる。
 朦朧とする頭で、だがかすかに残る理性が強い拒否を示す。
 自慰を誰かに見せるなど、正気の沙汰ではない。
 言葉の代わりに首を必死で振るが真田は許してはくれない。
「ほら、早くしないと‥もしかしたら、寒守が来るかもしれないぞ?」
 支配者の高みから全身を視姦される。
 だが、事が事なだけに実行には移せない。
 もたもたしていると、ぐいと下腹部を押され思わず失禁してしまいそうになる。
「‥‥ひッ。や‥‥やめ‥‥うッ」
 当初は我慢できそうだった尿意は、手洗いまで来てしまった事で反射的に増していた。
「だったら早くやってみせろ。まぁ、このままお前が失禁する姿を見るのもいいが、どうせならお前も気持ちが良いほうがいいだろう?」
 
 言われるがままに、手をゆっくりと動かし、堅く反りあがった自分自身を擦りはじめる。
「ふ‥‥あぁッ‥」
 もう限界を迎えていた伊織は、この異常な状況下ですぐに達してしまう。
 満足げに見下ろす真田はどこまでも高慢なまま。
 
 ああ‥ああ‥‥‥。
 
 本当に恐いのは死者ではなく生者。
 
 凄まじい快楽と恥辱に、かすかな理性を手放した。
 
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2006.08.27
書いておいて言うなっちゅー感じだが、予想以上に真田先輩までドSになってしまい
どーしたもんかと。
たいした内容もない癖に、無闇やたらと文章が長くなるのを改善希望。
こんなんで、心情描写まで細かくいれたらシャレにならん長さにーー!!

 

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