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- 無機質なコンクリート。
- 愛想などとは程遠い存在に思えるそれが、今はオレンジ色の夕日に照らされて、
- 哀愁という名の不思議な表情が生み出されている。
- その表情に騙され、感化されてしまった人間がここにひとり。
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- [すべてではなく誰かにとっての]
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- 人気の無い放課後の屋上。
- 青いベンチに細く長い足をしどけなくなげだし寝そべるが、彼の人物が収まるには
- 少々役不足だったようで、踵が宙に浮いていた。
- 空に浮かぶ沈みかけの眩い宝石。
- 掴めないと理解していつつも手を伸ばさずにはいられなかった。
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- (‥‥‥‥‥ふぅ)
- 自然と溜め息がもれる。
- 普段の彼からは想像できない程、弱々しく頼り無い表情。
- どんな時でも明るく、お調子者の伊織がまさかこんな表情をするとは誰も思わないだろう。
- いや、人である以上、そんな表情もする事はあると分かっていはいるが、普段の彼からは
- まったくそんな感情とは無縁な人間だと思い込まされている。
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- 「俺って‥‥欲張りなのかな?」
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- 内なる心の力―――。
- ペルソナという酷く特殊な能力を行使できる彼は、明らかに周りに人間とくらべると
- 『特別』であった。誰でも心の奥底で渇望する感情。誰も彼もが欲する力を手にしているはずだった。
- だが伊織は、あれほど望んだ『特別』に満足できていなかった。
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- 4月の転校生に嫉妬していた。
- あの高潔なる生徒会長の信頼も厚い転校生。
- 優美な姿からは想像できない類い稀なる運動神経に、聡明な頭脳。
- スポーツ万能で成績優秀などという言葉の存在証明。
- おまけに本来ならば、1種類しか使えないと聞かされていたペルソナを付け替える能力。
- 『特別の中の特別』
- 複数のシャドウを相手に、場面ごとオールラウンドに戦える彼が特別課外活動のリーダーになる
- のは必然のように思う。けれど感情で納得できていない。
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- これが、自分より年上であったなら、憧れという感情になっていたかも知れない‥。
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- これが、自分よりも年下であったなら、嫉妬はすれどまた違った感情が芽生えていただろう。
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- けれど、同世代というカテゴリーの中では、無駄なくらい色々と比較してしまう。
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- (‥‥‥‥‥‥‥ふぅ)
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- 夕日の眩しさに耐えられず、トレードマークである帽子を目深に被る。
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- (‥‥‥‥‥‥‥ふぅ)
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- 「溜め息をつくと幸せが逃げるそうだぞ」
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- 「ッ!?うわぁッ‥‥‥とと、せ‥‥先輩!?」
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- いつの間にか現れた美麗なる拳闘士。
- 真田の来訪に、目に見えて動揺を隠せない伊織。
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- 「い‥いつの間に‥‥ッてーか、何時からいたんですかッ!?」
- まさか、先程まで感傷的な気分に浸っていた自分を見られたかもしれないと思うと、
- とてつもなく恥ずかしくいても立ってもいられなくなる。
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- 「くく‥‥‥。そうだなぁ、お前が夕日に手をかざしている辺りからかな?」
- かたちの良い唇がニイッとかすかに上がり、意地悪く微笑む。
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- (そんな前からかよッ!!)
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- 「‥‥‥‥‥‥‥‥うわッちゃーー!?」
- 羞恥に染まる顔を帽子で隠す。
- (だめだ‥‥‥恥ずかしくて死にそーーー)
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- 「おや、隠してしまうのか?」
- 実際、楽しいのだろうがくすくすと楽しそうに真田は笑う。
- この場から一刻も早く立ち去りたいはずなのに、真田はストンとベンチの前に腰を降ろすと、
- 伊織の胸の辺りに頭を乗せ寄り掛かってきた。
- 恥ずかしくて仕方が無いというのに、更に跳ね上がる心臓の鼓動まで聞かれてしまうのでは
- ないかと思うと余計に落ち着けない。
- みっともなくジタバタと暴れるが解放される事は無かった。
- (ああ‥‥もう‥‥‥‥‥‥‥‥ッ)
- 伊織が諦めて、心が会話をできる程度にまで落ち着いた頃には、
- 沈みかけていた夕日はほぼ消えかけていた。
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- 長い、長い。静かなる時間を遮ったのは伊織だった。
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- 「ねぇ‥‥‥。先輩」
- 「ん?なんだ」
- 「先輩は‥‥。いや、先輩でも特別ってものに憧れますか?」
- 転校生とはまた違った特別なる存在。
- モデルといっても通用するルックスに、均整の取れた美しい顔立ち。
- 更には、将来を有望視されるボクシング部の主将。
- こんな出来過ぎた人間でも『特別』を望むのだろうかと、ふと聞いてみたくなったのだった。
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- 「先輩でもって‥‥‥いや、まあいい。それは俺だって憧れるさ」
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- 「そういう‥もんすか‥‥‥」
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- 「なんて情けない声を出すんだ」
- 「え‥いや、その‥‥‥」
- 「大方、転校生と自分を比較していたんだろう」
- 「‥‥‥‥‥‥‥‥ビンゴっす」
- 「なぁ‥‥順平。お前は誰よりも特別な存在になりたいのか?」
- 「え?あ‥‥‥だって、そりゃ先輩だって特別に憧れるって言ったじゃないっすか」
- 「それは違うな」
- 「それは‥どう‥‥」
- 「俺は誰かの為の特別になりたい。
- 俺でなければ絶対に駄目なんだと言われるくらい、誰よりもその人にとっての特別になりたい」
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- (メチャクチャ格好良すぎ‥‥‥‥‥)
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- 誰よりも彼よりも特別な存在になるのでは無く、誰か‥唯ひとりの特別という地位。
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- (俺が同じ台詞言ったって駄目だけどさ、先輩様になりすぎだって‥‥‥)
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- 「‥‥‥‥ッはぁーーー。なれるっすよ、先輩だったら。絶‥‥ッん!?」
- 自分と違いすぎる素敵な先輩に、苦笑しながら断言しようとした伊織の唇は、
- 真田の唇に隙間なくしっかりと塞がれてしまう。
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- 「んッ!?んんんんんんッ!!!な‥‥‥ッ!何するんすかぁ!!」
- ようやく引き剥がした真田に抗議するが、しれっと返される。
- 「言ったろう?溜め息をつくと幸せが逃げると」
- 「だからって‥‥、なんでチュー‥‥‥‥」
- 「ん?お前から幸せが逃げないように塞いでやったんだ。感謝しろ」
- 「あ‥‥‥ありえない‥‥‥。何メルヘンな事言ってんすか‥‥‥‥」
- 「くくッ。目が潤んでいるが、そんなに良かったか?」
- 「んなワケないっしょーーッ!!!!」
- 「はははッ、そうそうその顔。やっぱりお前には深刻な顔は似合わない」
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「あー、もう‥‥‥」
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- 「なあ、順平。
- お前が溜め息をついたら、その度にキスしてやろう」
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- 2006.09.08
- 前回っちゅーか、記念すべきいちばん最初に書いた真×伊があんまりにもヤバかったんで
- 頑張って真田先輩をカッコよく‥‥‥‥‥‥‥なってねぇしぃいいいいい!!
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